Firefox OSが残したもの、KaiOS、Panasonicのテレビ、Mozillaの最新プロジェクト。
2011年にB2G(Boot to Gecko)の開発を発表し、世界中に500万台ものデバイスにFirefox OSとして出荷されたMozillaのプロジェクトは、2016年にコミュニティへと移行し、その後 アプリストアが閉鎖され、MozillaはモバイルOSから撤退しました。
しかし、Mozillaの終了発表から2年たち、このプロジェクトからは多くの派生品が生まれました。しかも、Mozillaが開発していた時期よりも(Firefox OSの派生OSがインストールされた)デバイスが桁違いに多く出荷されていて、モバイルOSで3番目に大きなOSに成長したものもあります。
以下はB2Gコードを使った、またそれに関連したプロジェクトのいくつかです
KaiOS
Panasonicの「My Home Screen」
Servonk
Webian
Astian OS
IceWolf OS
Mozilla Research & Development.
KaiOS
たぶん、Firefox OS派生の中で一番注目されているのはKaiOS TechnologiesのKaiOSです。これは、2016年に30人ほどで開始され、今では米国本社の他 インド、フランス、ドイツ、台湾、香港、中国にオフィスを持つようになっています。
「スマートフォンの能力とフィーチャーフォンの手ごろさを両立することを目的とする」ことを目指し、B2G(FirefoxOS)をベースに開発されています。いわゆる「ガラケー」用に最適化されたUIをもつのが特徴です。インドでかなり人気のあるJioPhone、Nokiaの8110、最近インドネシアで発表されたわずか7ドルのWizPhoneなどに搭載されています。KaiOSは「次の10億人をつなぐ」という目標で、新興国向けにローエンドデバイスの販売を目的としたFirefoxOSの目標を継続しています
JioPhone
JioPhoneは2017年7月の発売以降、インドでとても人気があるKaiOSのデバイスです。その人気の理由の1つは保証金1500ポンド(21米ドル)を払って、3年後に端末を返せば(保証金が)戻ってくるというシステムです。
さらに、JioPhone 2が2018年7月に2,999ポンド(42米ドル)で発売されました。これは、QWERTYキーボードやFacebook、WhatsApp、YouTubeといったアプリが使えます。
Nokia 8110
Nokia 8110は69.99ポンド($89)で発売され、シンビアンOSのような直感的なUIを持ちながらKaiOSを使って現代風にリメイクされています。
またこの端末では、Googleアシスタントが動きます。GoogleはKaiOSへ支援をしており、KaiOS向けにmozApp app runtimeを用いてGoogleアシスタントのHTML5アプリを作成しました。
WizPhone WP006
GoogleとAlfamartとの提携によって最近インドネシアで発表された、わずか7ドルで自動販売機から購入できるKaiOSデバイスです。
その他KaiOS搭載の端末
Alcatel OneTouch Go Flip
MaxCom 241 and 281
Doro 7050 and 7060
CAT B35
MTN Phone (coming in 2019)
急速に成長するKai OS
KaiOSは2017年末までに20もの通信事業者と連携しアメリカ、カナダ、インドで3000万台を出荷しました。2018年6月には4000万台に達してグーグルはKaiOSへ2200万ドルの投資をし、それによってKaiOS TechnologiesはGoogleアシスタント等のGoogleサービスをKaiOSへプリインストールすることにGoogleと同意しました。
そして、2018年末には5000万台を超えて、この時点でStatCounterの調査ではモバイルOSのシェアでAndroid、iOSに次いで世界第三位の座を獲得しました。
さらに、インドでは4.55%のシェアでiOSを抜き2位に。
Strategy AnalyticsはKaiOS端末の出荷台数が2019年に前年同期比で50%上昇して、その30%以上が東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカといったインド以外の市場であると予測しています。
Panasonicの「My Home Screen」
B2GのフォークはKai OSだけではありません。PanasonicはFirefox OSベースのスマートTVを初めて発売した企業であり、2015年に発売された時はそのユーザーフレンドリーなデザインから高い評価を受けました(参考→【西田宗千佳のRandomTracking】なぜテレビにFirefox OS? をパナソニックに聞く - AV Watch)。MozillaがFirefox OSを開発停止してもPanasonicはMy Home Screen 2.0の次である"My Home Screen 3.0"の開発を続行しました。
2019年現在、ほとんどのパナソニックのスマートテレビはまだこのB2GベースのOSを使用していて、世界中でローカライズされ、販売されています。ただ、アメリカは例外でパナソニックは最近、テレビの販売をやめています。
My Home Screen 3.0のブラウザはFirefoxOSからほとんど変更されていませんが、アプリ開発は大きく制限されているようです。開発者アカウントの取得は基本招待のみで 申請しても、開発するアプリの情報を聞かれるようです。開発者モードを有効にできたり、マーケットプレイスへ簡単にアプリの送信できた元々のFirefox OS TVとは大きく違います。それでも、Netflix、YouTube、Amazon Prime Videoといった主要なアプリはサポートされているため問題は少ないでしょう。
現在、パナソニックは年間約700万台のテレビを販売しています。
Servonk
MozillaのB2Gの前 技術リーダーであり、現在はKaiOSの技術リーダーであるFabrice Desré氏はServonkというOSSのプロジェクトを開始しています。これは、B2G(Boot to Gecko)のServo版で「Boot to Servo」のようなものです。Mozillaが開発する実験的なレンタリングエンジンのServoをベースにして、Rust言語を用いて作られています。
ただ、Servoはまだ実験的なブラウザエンジンで今日の多くのWebページはレンタリングできません。最近のServoに関する動きは主にVRアプリとQuantumプロジェクトがServoのコードの一部をGeckoへ移植していることです。
Webian
Webianプロジェクトの始まりは、B2Gよりも前ですが FirefoxOSから多くの教訓を学び、それを生かしてまだ続けられています。WebianはWin/Mac/LinuxなどといったOSの上で動くWebアプリ専用のオペレーティングシステムです。デスクトップ版は、現在Mozillaの実験的なQuantum Browser Runtime (qbrt)をベースとし、Touch版はAndroid ThingsとGeckoViewに基づいてます。
Astian OS
Astian OSはFirefox OSの後継だと言いますが、実態はDevuan(Debianの派生)をベースにしたWebアプリメインのデスクトップLinuxディストリビューションです。
IceWolf OS
もともとはPlániumOSと呼ばれていました。ブラジル発のオープンソースソフトウェアです。TwitterプロフィールによればFirefox OSから影響をうけ、Web技術を用いて作られたというOSです。
NodeJS & Chromium、Electronや、NW.jsを使った実験の後、Geckoへ戻っています。
Mozilla Projects
Mozillaが進めるWebVR、そしてそのVR上で動くFirefox Realityは初めにFirefoxOSのあらたなプラットフォームとして開始され、いまでも開発されています。
DeepSpeech(音声認識)は、FirefoxOS用のVaani voice assistantの一部として開発され、最終的にFirefox Listenというボイスブラウザで使用される可能性があります。
Mozilla IoTの取り組みにはAndroid ThingsとGeckoViewを使用したスマートディスプレイに関するプロジェクトがあります。
残したもの
Mozillaが開発していた間、5年間で約500万台のデバイスがFirefox OSをインストールして出荷されました。それ以降も、5000万台以上ものフィーチャーフォンと何百万ものスマートテレビがB2Gコードを実行し、出荷され、そこから派生して、また触発されて作られた新たなプロジェクトもいくつかできました。
StatCounterによると、モバイルブラウザのシェアではFirefoxよりもKaiOSが上回っています。
KaiOSのその急激な成長率とFirefoxのシェアの低下により、KaiOSがGeckoをやめずMozillaがシェアの低下を抑えられない場合、KaiOSがGeckoを使用する最大のソフトウェアになる可能性もあります。
しかし、KaiOSは現在Gecko48と古いバージョンで動作しており、最新のGecko64にまだ追いついていません。また、PanasonicのMy Home Screen 3.0はGecko34です。
MozillaはすべてのB2Gコードをmozilla-centralコードレポジトリから消したため、PanasonicやKaiOSはアップデートが難しい状況にあるのです。さらに、MozillaはQuantumプロジェクトの一環としてGeckoに大幅な変更を行い、B2Gを最新版へ移植することがより困難になってしまいました。
悲しいことに、Firefox OSが残したものは全世界で何千もの携帯やテレビが古いバージョンで実行され、潜在的にユーザーを危険に晒すだけでなくウェブ全体の成長を妨げていることです。
これから
では、FxOSの派生を使っているこれらの会社はどうするでしょうか。MozillaのサポートがなければKaiOSはGeckoからBlinkへの移行をするでしょう。実際、Google Chromeチームの支援によってこれを行うための準備が行われています。
結果として、これはAndroidとChrome OSの中間に位置するOSのようになるでしょう。パナソニックは同じコードを使うか別のソフトウェアへ移行することもできます。
B2GをBlinkへ移植する作業は大変ですが、うまくいけばChrome,Safari,Opera,Samsung Internet,Edge,Brave,Vivaldiなどが使用するWebKit / Blinkへの貢献も増えるでしょう。
OperaもMicrosoftもブラウザレンタリングエンジンの開発をやめ、Chromeベースへと移ったのでMozillaは本当に最後の代わりとなるかも知れません。複数の、相互運用可能な実装がなければ、Web標準は存在し得ないため、これは非常に重要です。
FireTV、Amazon Echo Show、VRといったMozillaによる取り組みは今も続いています。しかし、最近はFirefoxのシェアは低下する一方で競合他社はChromiumコードベースへと移り、Geckoの将来とWebの多様性・健全性は厳しい状況にあるとBen Francis氏は見ています。
まとめ
MozillaがFirefox OSの開発を終了してから、B2Gのコードはかなりの数の製品に組み込まれ、現在ではモバイルOSの中で3番目に成長するOSの基礎を作りました。しかし、これらの端末のGeckoバージョンは古く 、隔離されたアプリストアを持ち、それぞれプロジェクトごとに開発されており、B2Gが本来めざした「オープンWebと言えば」という存在にはなれていません。
Mozillaが成功するために必ずしもスマートフィーチャーフォンとスマートテレビが必要だったと考えてはいません。また、必ずしも これらがオープンWebを最も表しているとも思いません。しかし、B2Gの残したものは「B2Gが予想以上に汎用性と拡張性に優れたプラットフォームであり、これほどまでの価値があったことが分かった」ということです。
2.4インチスクリーン搭載の7ドル携帯から77インチ4Kスクリーン搭載の17000ドルTVまでB2Gは使われ、販売されているのです。
Ben Francis氏は個人的な意見としつつもMozillaにKaiOS Technologiesと協力し、B2Gかその中のGonk widget layerのコードをmozilla-centralへ戻し、B2Gコードの所有権を再度 取り戻すことを勧めています。そうすれば、KaiOSはBlinkに行くことなく再びGeckoにとどまり、Mozillaの新たなプロジェクトへ大きなチャンスが開く可能性もあります。スマートディスプレイ(Amazon Echo Show、Lenovo Smart Display、Google Home Hub)やTablet hybrid devices(Pixel Slate、ASUS Chromebook Flip)といった新たなフォームファクタも増えていて、B2Gも十分 活躍できます。
例えば、スマートディスプレイはMozillaの新3年戦略と一致していますし、またMozilla自身のOS上であればGoogleやAppleから制御されることもありません。
VR、スマートホーム、そしてまだ見たことのない他のB2Gの使用例があるかもしれません。
ウェブプラットフォームが中心となる日が来るかもしれませんね。
"The web is the platform. Let's allow it to shine."
ーウェブはプラットフォームだ、ウェブを輝かせよう。